山口地方裁判所 昭和29年(行)15号 判決 1956年4月19日
原告 北川チエノ
被告 山口県知事
補助参加人 内田ヨ子
主文
被告が昭和二十九年七月二十日付買収令書により別紙目録記載の農地につきなした買収処分中四千百三十番地の六田一反二十六歩の内道路敷十三坪五合七勺(別紙図面中の(ロ)部分)井戸敷四坪八合四勺(別紙図面中の(ニ)部分)に干する部分を取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十九年七月二十日発行に係る買収令書により別紙目録記載の農地に対してなした買収処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めその請求原因として、
原告は米国領ハワイ島ヒロ市に生れ同市に現住し、米国と日本の両国籍を有するものであつたが昭和二十六年七月十四日日本の国籍を離脱したものである。別紙目録記載の二筆の土地(以下本件土地と略称)は原告の所有であるところこれにつき訴外神代村農地委員会(以下村農地委員会と略称)は昭和二十四年四月八日自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三条第一項第一号に該るものとして買収計画を樹立し、訴外山口県農地委員会は同年六月三十日これを承認し、被告は右買収計画に基づき買収令書を発行しこれを原告に交付せず右令書の交付に代え昭和二十五年三月三日付山口県報に右令書記載事項を公告してこれを買収した。そこで原告は山口地方裁判所に右買収処分無効確認の訴(同庁昭和二十六年(行)第三一号事件)を提起したところ昭和二十九年七月八日「右公告による買収処分は無効である」旨原告勝訴の判決あり買収手続の違法であることが確認された。そこで被告は前記買収計画に基き昭和二十九年七月二十日更めて買収令書を発行し同年八月七日これを書留航空郵便により原告宛発送し、原告は同月十二日右買収令書を受け取つた。しかしながら右買収計画には次のような違法がある。
一、本件買収計画に対する原告の異議申立につき決定をなさずして買収手続を進行し、その後なしたる決定を原告に通知しない違法がある。
即ち前述の如く村農地委員会において昭和二十四年四月八日本件買収計画が樹立されるや、当時本件土地等原告所有財産の管理人であつた訴外柳原岩松(昭和二十三年十月十八日参加人内田ヨ子に交替し管理人となる)が原告に代理して同年四月十八日村農地委員会に異議の申立をした。村農地委員会は同年六月十二日の委員会において右異議申立を受理して審議をしたに拘らず何等の決定、通知をしないまま、同年六月三十日県農地委員会の承認、続いて買収令書(前叙公告をもつて交付に代えた分)の発行と買収手続が進められ同年八月二日に至り村農地委員会は原告の右異議申立は相立たない旨決定しながら自創法施行規則第四条の規定を無視し右決定書の謄本を原告にも訴外柳原岩松にも交付しないのは勿論何等の通知もしなかつた。そのため原告は訴願の機会を失した。被告において更めて発行した本件買収令書は昭和二十四年六月三十日県農地委員会承認に係る前記買収計画に基くものである。
二、本件土地は農地でなく宅地であるからこれにつき買収計画を樹立することは許されない。
即ち本件土地は原告の父である訴外北川磯治郎が別荘敷地にするため昭和九年七月本件土地附近の山林宅地十数筆と共に買受けたものであり、昭和二十五年三月三十一日神代村字瀬戸四千百三十番地の一田一反九畝二十三歩を五筆に分筆したその内の二筆である。本件土地外の三筆部分には古くから訴外今井武登所有の別荘(現在補助参加人内田ヨ子居住家屋)があり本件土地はむしろ宅地というべき状況にあつたところ訴外北川磯治郎において右買受当時更に埋立てここに観賞用梅樹数十本を植え本件土地の地続きにある右訴外人の新旧邸宅(二棟)の庭園にしていたものである。原告は昭和十六年六月本件土地の所有者となつたがその頃日本への帰来不如意となつたので訴外内田憲一及びその妻補助参加人内田ヨ子に本件土地等の財産管理を依頼した。しかるに同人等は昭和二十二年頃当時の食糧難を克服するため原告に無断で本件土地上の梅樹を他に移植しその跡を菜園畑としたものである。しかしこれは一時的のものであつて本件土地は前叙の如く本来別荘内の庭園であり自創法第二条第一項にいう農地に該らない。農地でない本件土地を農地として樹立した本件買収計画は違法である。
三、本件土地は小作地でないからこれにつき買収計画を樹立することは許されない。
即ち本件土地は仮に農地だとしても小作地ではない。訴外内田憲一は元、山陽線大畑駅長であつたがその職を辞してから現住家屋においてその妻である前記内田ヨ子と二人で余生を楽しんでいたもので同人等は別に職業なく元より耕作の業務を営んでいるものではない、昭和二十二、三年頃鶏十四、五羽を飼つていたことはあるがこれにより生計を立てていたのではない。又原告は前叙の如く訴外内田憲一夫妻に本件土地の管理を依頼した事実はあるが耕作することを許したことはない。同人等において本件土地上の梅樹を他に移植して畑となし耕作することは管理人としての権限外の行為である。原告は訴外内田憲一夫妻に対し本件土地を賃貸は勿論使用貸借によつて貸したことはない。同人等が戦後の食糧事情から本件土地を一時耕作していたとしてもこれ何等の権限に基くものでないから本件土地は自創法第二条第二項にいう小作地ではない。小作地でない本件土地を小作地として樹立した本件買収計画は違法である。
四、本件土地は自創法第五条第五号のいわゆる近く土地使用の目的を変更することを相当とするものであるからこれにつき買収計画を樹立することは許されない。
即ち仮に本件土地を農地と認むべきものとしても本件土地はその環境景勝の土地であつて観光ホテルの敷地として嘱望されており、近い将来においても宅地化する土地である。従つてこれは自創法第五条第五号にいう「近く土地使用目的を変更することを相当とする農地」に該るから村農地委員会が同号所定の指定手続をなさずして買収計画を樹立したことは違法である。
よつて右違法な買収計画に準拠してなした本件買収処分は違法であるから右買収処分の取消を求めるため本訴請求に及ぶ旨陳述し
被告の主張に対し
一、本件買収計画の公告が昭和二十四年四月八日になされ、縦覧期間が同月十八日までであつたことを認める。
二、(イ) 被告は前記異議申立につき訴外柳原岩松を原告の正当な代理人と認められない旨主張するが右訴外人は原告の土地管理人として原告を代理し且つ原告の委任状を提出し右異議申立をしたものである。仮に右委任状がなかつたとしても右訴外人は原告の財産管理人として本人を代理し原告所有土地に関する保存行為をなす権限を有するから、同人は原告を代理し本件買収計画に対する異議の申立、訴願をなし得るのは勿論、買収処分に対する取消訴訟もできると解すべきである。
(ロ) 本件土地の台帳及び実測面積、道路敷、井戸敷の各面積が被告主張の如くであることを認める。前記異議の申立は右道路、井戸敷に対するのみでなくこれ等を含めた本件土地全部の買収計画に対し不服であり異議を申立てたものである。
三、本件土地上にかつて建物の存在したことのないこと、昭和十七年の風水害に梅樹が流失枯死したこと等を認めるが右流失枯死したのは一部である。右風水害当時梅樹の一部を他に移植した事実はない
旨陳述した。
(証拠省略)
被告指定代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め答弁として、
原告が本件買収計画樹立当時米領ハワイ島ヒロ市に現住し米国と日本の両国籍を有したこと、本件土地が原告の所有であつた神代村字瀬戸四千百三十番地の一田一反五畝二十三歩を昭和二十五年三月三十一日五筆に分割した内の二筆であること、本件土地についての自創法による買収計画の樹立、その承認、買収令書の発行、買収令書の交付に代る公告、買収令書の再度の発行、その交付等が原告主張のような経過を辿つて行われたことを認める。なお右買収計画の公告は昭和二十四年四月八日行われ縦覧期間は同月十八日までであつた。原告主張の
一、の事実中訴外柳原岩松が原告の本件土地の管理人なりと称し原告主張の日、村農地委員会に本件買収計画に対する異議の申立をなし、これに対し同委員会が原告主張の日右異議に対する決定をしたこと、その決定書謄本を原告、訴外柳原岩松等に交付していないこと等はこれを認める。しかし
(イ) 訴外柳原岩松は原告の「土地管理人」であると称しているが原告の代理人であることを証すべきものの添付なく、村農地委員会においてこの異議申立書を審議(昭和二十四年六月十二日)するまで、又更に審議した同年八月十二日までに代理権を証すべき委住状は提出されなかつた。結局右異議申立は原告からなされたものと認めることはできない。従つて右異議申立は自創法第七条第一項にいう異議申立でないからこれに対する決定の有無は買収計画の手続進行につき何等の影響を及さないものである。
(ロ) 仮に右「異議申立書」を自創法第七条第一項にいう異議申立と認めるとしても右異議は本件土地全部の買収計画に対するものではなく、本件土地の中「宅地に通ずる道路」と「井戸」を買収計画より除外するよう要求しているにすぎない。そうするとこの異議に対する決定を行わずして買収したことが違法であるとしてもその違法の範囲は右道路、井戸の両部分に過ぎない。しかしながら(非農地)を買収することを違法処分として取消さねばならないとしても原告の請求は次の理由により棄却さるべきである。
即ち本件農地の買収面積は台帳上一反二十九歩、実測面積三百三十五坪五合である。その中道路部分は十三坪五合七勺、井戸部分は四坪八合四勺で計十八坪四合一勺である。本件土地中荒地部分十五坪二合六勺(別紙図面―乙第二十号証―中(イ)(ハ)該当部分合計)をも非農地として右道路、井戸の面積に合算するも合計三十三坪六合七勺である。これを本件土地の総面積に比較するに僅少であり且つ散在しており個々には何等の利用価値がない。さればこれを取消しても原告にとつては全く実益がないのみならず、しかもこの道路の部分は本件農地を横断し又本件土地の売渡を受けた補助参加人内田ヨ子家の唯一の出入路であり、井戸はその唯一の飲料水を求めるところである。これを取消してその結果原告にこの部分のみについての所有権を留保せしめ、これに対する自由なる権利の行使の余地を残すことは、農地の利用度を制限し補助参加人家の社会生活に重大な支障を及ぼし自創法の精神よりして公共の福祉に適合しないから行政事件訴訟特例法第十一条により原告の請求は棄却さるべきである。
二、の事実中本件土地が公簿上田地であり神代村字瀬戸四千百三十番地の一田一反五畝二十三歩を昭和二十五年三月三十一日五筆に分割したものの中の二筆であること、原告の父北川磯治郎が昭和九年七月本件土地附近の山林宅地と共に他から買受けこれに一時梅樹を植えたことはこれを認める。昭和十七年本件土地の一部が風水害を蒙つた際梅樹は殆んど流失又は枯死し、或は他に移植され、訴外内田憲一、補助参加人内田ヨ子がこれを野菜畑とし使用しているものであり現況は畑地である。本件土地上に未だかつて建物の存在した事実はない。
三、の事実中訴外内田憲一が元、大畑駅長でありこれをやめた後現住家屋に補助参加人内田ヨ子と共に居住していることを認める。右内田ヨ子が昭和二十二、三年頃飼育していた鶏は百五十羽でありこの養鶏が主たる生活の手段であつた。補助参加人内田ヨ子は昭和十六年十月十一日本件土地全部を耕作の目的に供するため原告から賃料を一月につき金二円とし、賃借期間を定めずして賃借し、その賃料は原告の全財産の管理人である訴外青木久一に対し昭和十六年度から昭和二十二年度分までを昭和二十二月十二月二十七日に支払い、右青木久一はこれを異議なく受取り、昭和二十三年度以降の賃料は本件土地の売渡を受けるまで毎年末に支払すみである。
仮に本件土地の使用耕作が賃貸借契約に基くものでないとするも原告主張の如く補助参加人内田ヨ子夫妻に対し原告の父北川磯治郎を通じ本件土地の管理を委されていた。右管理の内容は、原告一家が米国に居住し再三帰郷することができず且つ戦争の開始も予想されていた当時(右北川磯治郎は昭和十六年十月の日米航路最後の竜田丸で帰布した)としては本件土地の本来の目的に沿い畑として耕作し維持することも委任したものと解さねば管理の目的は達せられない。そうすると補助参加人内田ヨ子夫妻は使用貸借権をも含んだ管理権を与えられたものである。いづれにしても本件土地は小作地であるといわねばならない。
四、の事実はこれを争う。本件土地は昭和九年原告の父北川磯治郎が取得して以来引き続き畑地であつて他に転用された事実はない。もつとも今日の如き住宅事情では一般的に農地を宅地にするか又は投機的に売買の対象にし易い風潮を生じてはいるがそれ等の一般的風潮をもつて直ちに自創法の適用を免れることは同法の期待するところでなく、かくては鉄道沿線又は都市に存在する農地は殆んど買収できないことになる。
叙上の如く本件買収計画には違法なく、従つて本件買収処分は違法であるから原告の本訴請求は失当であると陳述した。(証拠省略)
補助参加代理人は、補助参加人は今次の農地改革の実施により本件土地を政府から売渡を受けこれによつて農業を営んでいるものである。若し被告が本訴において敗れ政府の右売渡処分が取消されると補助参加人は本件土地の所有権を失うことになるので本訴の結果につき重大なる利害干係を有する。それで被告を補助するため参加を申出た次第であつて、事実干係については被告指定代理人の陳述を援用すると述べた。
(証拠省略)
理由
本件土地が米領ハワイ島に住所を有し日本と米国の両国籍を有する原告の所有であること村農地委員会が昭和二十四年四月八日本件土地を自創法第三条第一項第一号に該る農地として買収計画を樹立し、山口県農地委員会が同年六月三十日右買収計画に承認を与え、被告が右買収計画に基づいて昭和二十九年七月二十日買収令書を発行し、同年八月十二日原告に送達し本件土地を買収したことは当事者間に争がない。以下順次争点について判断する。
一、本件買収計画に対する異議申立につき、原告に決定を通告せずして買収手続を進行した違法があるとの点について。
村農地委員会において昭和二十四年四月八日樹立した本件土地の買収計画に関し所定の縦覧期間内に訴外柳原岩松が本件土地の管理人として異議の申立(異議の対象については後記)をしたことは当事者間に争がない。そこで訴外柳原岩松には原告の代理人たる資格がない旨の被告、補助参加人等の主張について考えて見る。原告において、訴外柳原岩松が右異議申立をなすにつき原告の代理人たることを証するため原告の委任状を提出した旨主張するも証人柳原岩松の証言、当事者間成立に争のない甲第二号証の二、甲第十四号証を綜合すると訴外柳原岩松は右異議申立につき村農地委員会に右委任状を提出していない事実を認めることができ当事者間成立に争のない甲第九号証の二、甲第十六号証によつては右異議申立後訴外青木久一から村農地委員会に右委任状を追完した事実を未だ確認するに足らず他にこれを認めるに足る証拠がない。よつて原告の右主張は認められない。然るところ当事者間成立に争のない甲第十四号証、第十八号証の一、証人青木久一、同柳原岩松、同柳原ナラヱの各証言を綜合すると、訴外柳原岩松は昭和二十三年十月十八日原告から本件土地を含む原告所有財産の管理を委任されたのでその頃本件土地の近くにある原告所有家屋に転住し原告所有財産の管理を始め現在に至つていることを認めることができる。そうすると訴外柳原岩松は不在者たる原告の財産管理人としてその管理財産である本件土地の保存行為として本件買収計画に対し異議申立をなす権限を有するものというべく委任状の提出なき場合においても訴外柳原岩松において管理人たる事実を証明し或は村農地委員会において自ら右事実を確認したときは村農地委員会は右異議申立を受理し審議決定しなければならない。後述する如く村農地委員会において前叙異議申立を受理し審議している本件においては右異議は自創法第七条第一項所定の適法なる異議というべきである。よつてこれに反する被告、補助参加人等の主張は採用しない。
次に右異議に関し原告は右は本件土地全部の買収計画に対するものであると主張し、被告、補助参加人等は本件土地内に在る道路、井戸部分に対する買収計画に対するものである旨主張するので考えて見るに当事者間成立に争のない甲第十二号証、甲第十四号証を綜合すると右異議は本件土地内の道路、井戸を買収計画から除外すべきことを求めたことが明であるから本件異議は前叙道路井戸の部分に対しなされたものと認める。而して当事者間成立に争のない甲第二号証の二によると村農地委員会は昭和二十四年六月十二日の委員会において右異議申立を受理し審議の結果異議申立につき承認決議した事実を認めることができるが決定書謄本を異議申立人に送付しなかつたことは本件弁論の全趣旨により明である。然るところ自創法施行規則第四条第一項によると右の如き異議申立に対する決定をしたときは市町村農地委員会は遅滞なく決定書の謄本を申立人に対して送付しなければならないものであり又この決定は行政処分たる性質上申立人に決定書謄本を送達することによりその効力を生ずるものといわねばならない。そうすると前叙異議申立に対する農地委員会の決定は未だその効力を生じないものであり自創法第七条第三項所定の決定をしないことに帰するので村農地委員会は自創法所定のその後の買収に関する手続を進めることはできない。然るに村農地委員会が樹立した右道路、井戸を含む本件土地全部に亘る買収計画につき山口県農地委員会が昭和二十四年六月三十日承認を与え、被告が右買収計画に基き昭和二十九年七月二十日買収令書を発行し原告が同年八月十二日これが送付を受けたことは当事者間に争のないところであるから前叙道路井戸部分に関する右買収処分は自創法第八条第九条の各規定に照し許されないこと明である。しかのみならず原告、又は訴外柳原岩松に対し前叙決定書謄本を送付しなかつたことは県農地委員会に対する訴願の機会を与えなかつたこととなり原告としてはその権利、利益を担保するため認められた救済手段を不法に奪われたものというべきである。そうすると前叙道路、井戸部分についての買収処分はその余の点について判断するまでもなく違法でありその手続に重大且明白な瑕疵あるものとして無効のものと解すべきである而して本件土地内の右道路及び井戸の所在部分は当事者間成立に争のない乙第二十号証(別紙図面)によりこれを確定することができ、右道路部分の面積が十三坪五合七勺、井戸部分が四坪八合四勺であることは当事者間に争がない。
次に被告、補助参加人は右道路井戸部分の買収処分が違法であつても行政事件訴訟特例法第十一条を適用し原告の請求は棄却せらるべきである旨主張するも同法条は行政処分の無効なる場合は適用されないものと解すべきであるから右主張は採用しない。
二、本件土地は農地ではなく宅地であるから本件買収計画は違法であるとの点について。
本件土地が公簿上田地であること、訴外北川磯治郎がこれに梅樹を植えたこと、本件土地上にかつて建物の存在したことのないこと、は当事者間に争がない。右事実に当事者間成立に争のない甲第十二号証、第十三号証、第十六号証、第二十号証、第二十五号証、第二十六号証、乙第十六号証、甲第十九号証、同号証(証人平原チヱの供述記載)により真正に成立したものと認める甲第三号証、証人尾本荒熊、同内田憲一の各証言、補助参加人内田ヨ子本人訊問の結果当裁判所の検証の結果を綜合すると本件土地(前叙道路、井戸部分を除く、以下同じ)は、元々田地として耕作に供されていた農地であつたところ訴外北川磯治郎が梅樹四、五十本を植付け梅林としたものであるが昭和十六年春頃は当時の本件土地の管理人であつた訴外平原チヱが梅樹の下の空地に小麦を作り、同年十月頃右訴外人の後を受けて管理人となつた補助参加人内田ヨ子が引き続き耕作していたが昭和十七年の風水害で本件土地の海岸寄り幅約十間位の土砂が流失し、梅樹の大部分が流失或は枯死したのでこれを復旧整地して甘藷、小麦、野菜類を作り、昭和二十二年九月頃梅樹の残木十数本の内九本を他に移植しもつて本件土地全体を畑地として前記のような農作地を耕作し来たものであつて、本件買収計画樹立(昭和二十四年四月八日)当時、本件土地は、地上に梅樹数本が残存していたが全体として農地であると認めることができる。
原告の全立証によるも本件土地が宅地であることを認めるに足らず又補助参加人内田ヨ子の右耕作が所有者たる原告の意思に明に反するものと認めることはできない。よつて原告の主張は採用しない。
三、本件土地は小作地でないから本件買収計画は違法であるとの点について。
当事者間成立に争のない甲第五号証、第十五号証、第二十五号証、乙第十四号証、第十六号証、第三者作成に係るもので当裁判所の真正に成立したものと認める乙第十七号証、第十八号証、第十九号証、証人内田憲一、同河面雅楽、同尾本荒熊の各証言、補助参加人内田ヨ子本人訊問の結果、これにより真正に成立したものと認める乙第十一号証を綜合すると、補助参加人内田ヨ子は本件土地の隣接宅地(訴外北川磯治郎所有にして訴外内田憲一において賃借)上の家屋を買受け、夫である訴外内田憲一と共に昭和十六年十月頃ここに転住したものであるが、その頃本件土地を耕作していた訴外北川磯治郎が急に米領ハワイに帰住することになつたので同人から本件土地を賃料を一月分金二円とし賃貸借期間を定めずして賃借し、訴外内田憲一は国鉄大畑駅長として勤務し、補助参加人内田ヨ子は鶏三十数羽を飼育し本件土地に甘藷その他鶏の飼料となるべき麦類、野菜等を栽培していたが、昭和二十年三月訴外内田憲一が国鉄を退職してからは主として養鶏による収入と訴外内田憲一の恩給(年額金四万四千円)により一家の生計を立てており鶏の飼育を百数十羽に増加し本件土地を前記同様目的の下に耕作し来つたことを認めることができる。当事者間成立に争のない甲第十四号証中「本件土地の一部を内田憲一が作つていた」旨の供述記載部分、甲第十八号証の一、二中「内田ヨ子から本件畑(土地)の地代を受領したことはない」旨の各供述記載部分は補助参加人内田ヨ子本人訊問の結果、前顕乙第十一号証に照し措信し難く、証人青木久一同柳原岩松同柳原ナラヱの各証言中「内田ヨ子は昭和二十三、四年頃鶏百数十羽を飼育していなかつた」との趣旨に帰する証言部分は証人河面雅楽の証言、補助参加人内田ヨ子本人訊問の結果に照し措信しない。甲第十二号証中「本件土地の耕作者は内田憲一である」旨の記載は補助参加人内田ヨ子本人訊問の結果に徴し原告主張事実を認めるに足らずその他原告の全立証によるも前記認定を覆し原告主張事実を認めるに足りない。
そうすると本件土地は本件買収計画樹立当時補助参加人内田ヨ子耕作中の小作地といわねばならない。よつて原告の主張は採用しない。
四、本件土地は自創法第五条第五号にいう「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」に該るから本件買収計画は違法であるとの点について。
当事者間成立に争のない甲第十三号証、当裁判所の検証の結果によると本件土地は山陽線大畑駅から東方へ徒歩四、五分行程のところにあり東側は海に面し南側は補助参加人内田ヨ子居住家屋の宅地と竹林の斜面に接しているが西側は隣地を支える丈余の石垣の下方に接し北側は鉄道線路に面する土地であり、附近一帯は住家はさ程調密ではなく、現在においても周辺の農地が宅地化されていることは認められない。周囲の状況環境等から見て本件土地が本件買収計画当時、近い将来その使用目的を変更するを相当とする土地とは認め難く自創法第五条第五号該当地ということはできない。もつとも当事者間成立に争のない甲第十八号証の二、第二十二号証、第二十三号証によると昭和二十三年頃訴外中本源一その他の者が本件土地を観光ホテル建設に適した土地として物色した事実を窺うことができるがその頃から現在に至るも右ホテル建設計画が具体化したことはこれを認めるに足る証拠がないので右事実によつては前叙認定を覆し原告主張事実を認めるに足りない。よつて原告の主張は採用しない。
そうすると本件買収処分中別紙記載の四千百三十番地の六、田一反二十六歩の中道路部分(別紙図面中(ロ)部分)十三坪五合七勺、井戸部分(別紙図面中(ニ)部分)四坪八合四勺の買収処分は違法処分として無効であるが、一般に行政処分が無効である場合においても少くともそれを外形上行政処分として存在する以上、その無効宣言を求める趣旨において処分行政庁を相手として右処分の取消を求めることを許されるものと解するので本訴請求中この部分に関する請求部分を正当として認容しその余の部分は失当として棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条但書を適用して主文の通り判決した。
(裁判官 河辺義一 藤田哲夫 野間礼二)
(別紙省略)